2024年1月17日
寒い日が続いています。
先週は雪も少し舞いましたが、
皆様お変わりありませんでしょうか。
年末年始の休暇も成人式の休日も終わり、
通常モードに戻られていることと存じます。
空気が乾燥しております。
風邪などにご注意ください。
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昨年6月のブログにも載せていますが、
過敏性腸症候群に使用する「トランコロン」が、
いよいよ在庫がなくなってきたようです。
昨年10月に販売が中止となっており、
その後は経過措置として在庫分を処方しておりましたが、
薬局からその在庫も無くなったと連絡を受けました。
もともと過敏性腸症候群に適応のある薬は限られていますが、
この数年で「セレキノン」と「トランコロン」の2剤が
ほぼ同時期に販売中止となっています。
これまでもお薬の販売中止はもちろんあったのですが、
どちらかといえば古くなって使われなくなったり、
新薬が出て出番が無くなったりしたのものが多く、
自然淘汰されていったものがほとんどです。
しかし私の印象ですが、
「セレキノン」も「トランコロン」も
一般の臨床でもよく使用される必要なお薬です。
これに見合うような代替薬や類似薬もありません。
このように必要なお薬が、
需要があるにもかかわらず供給できなくなる、
このような事態がこの数年多く起こっています。
特にコロナが起こってから、
またその前後でジェネリックメーカーの不祥事が
明るみに出てから顕著となりました。
考えられる理由としてはこれです。
「薬価が安すぎる」
薬価は診療報酬で決まっていますが、
診療報酬には医療従事者への人件費にあたる「本体」部分と
薬の値段などの「薬価」部分があります。
薬価は支出増を抑えるための調整弁になってきました。
診療報酬のうち本体部分をマイナスに改定できないため、
国は薬価を切り下げる手法で社会保障費を抑えました。
そのため、
診療報酬改定のたびに薬価は削減され続けました。
そしてもはや利益などほとんどでない、
場合によっては作れば作るほど赤字になる、
それに近いような薬も出ているようです。
多くの薬はジェネリックメーカーが担いましたが、
さまざまな不正、不備などが発覚し、
製造中止に追い込まれました。
ではそのジェネリックメーカーが作っていた
安価な薬は誰が作るのか?
先発メーカーにはそのような体制はありません。
国は先発メーカーから薬をとりあげ、
ジェネリックメーカーに安く作らせました。
しかしジェネリックメーカーの、
本来申請していたのと異なる製造方法などの
不正が明るみに出て製造できなくなったのです。
これも一つ考えられるのは、
薬価が安いためにメーカー側が
きちんと管理できなかったのではないかと考えています。
同じ薬を作る他のメーカーが撤退すると、
残りのメーカーで生産体制を上げなければなりません。
しかし大規模な設備投資もできるわけでもありません。
そこにきて原材料費の高騰、輸送コストの増大…、
値上げする要素はいくらでもありますが、
国が薬価を定めている以上乗せることもできません。
最終的には適当な理由をつけて、
「販売終了」とせざるを得なかったのだと思います。
普通の資本主義の原則にのっとって、
需要にみあうだけの利益が出る薬価であれば、
継続可能だったのではないかと思います。
野生動物で言うと「絶滅」に当たるのでしょうか。
一度販売中止になったお薬が、
再び世に出ることはおそらく難しいのだと思います。
また最近の風邪薬、咳止めの出荷調整。
多くの薬局で入荷できない状況になっています。
この理由は原薬の海外依存など、
様々な要因が絡み合っている可能性もありますが、
大本はこれも低収益構造が原因と考えられます。
当院でも近隣の薬局から、
入荷した風邪薬や咳止めの情報を日々もらいながら、
処方する薬の対応にあたっています。
メーカーは医療機関向けの薬は頑張って作りません。
ドラッグストアや薬局で売る風邪薬や咳止めを作っています。
薬局で売る薬に関しては適切な値段で売れるからです。
病院には咳止めはないが、
ドラッグストアには咳止めはあるという、
不思議な状況が続いています。
そのため処方可能な咳止め薬がない時には、
患者様に薬局で買ってもらうように説明しています。
患者様は戸惑っておられますが。
厚労省は昨年10月
不足している薬を製造する主要メーカー8社に対し、
在庫の放出や緊急の増産を要請しました。
厚労省が薬価を抑えた結果メーカーが弱体化し
供給できなくなっているにもかかわらず、
増産の要請をするとは驚きました。
12月には医療上の必要性が高い医薬品の、
増産に必要な設備整備や人件費を補助する
「医薬品安定供給支援補助金」の補正予算を組んだそうです。
製薬メーカーも企業として利益は追求しなければなりません。
製造できなくなるくらい薬価を下げたところに補助金です。
本末転倒だと思います。
それならもとから、
きちんとした薬価を設定すべきなのです。
このような薬品の供給不足は、
一朝一夕には解決しない問題と思われます。
こんな状況にもかかわらず今年の診療報酬改定では、
薬価はマイナス改定になることが決まりました。
ちなみに薬価を除く、
診療報酬本体分の医療機関の収益にあたる部分も、
わずか0.8%のプラス改定でした。
医療機関で働く職員の人件費高騰、
光熱費も病院はとても負担になっていますし、
医療材料も軒並み価格上昇しています。
このような状況下でわずか0.8%です。
もうデフレの時代ではないのです。
これでは医療従事者の賃金upは難しく、
努力しても報われないですね。
ちなみにですが、
財務省は今回の改定で当初は
マイナス5.5%を示していました。
こんなことをすれば、
赤字ぎりぎりの医療機関はたくさんありますので、
一撃でつぶれてしまうでしょう。
官僚は血が通っていないのかと思います。
今はお薬が不足する事態で済んでいますが、
医療費削減ばかりに注力していると、
医療機関も適切な医療体制を確保できなくなります。
近隣の病院では採算の合わない夜診を
4月から取りやめることにしています。
患者様が必要な医療を受けられなくなるかもしれません。
国はマイナンバー制度、インボイス制度の開始と、
個人からも企業からも取れる税金は、
一滴残らず吸い上げる仕組みを作っています。
国民からは取れるだけとって、
昨年11月には首相自ら、
官僚や議員の給与を引き上げる法案を可決させました。
そして皆さんご存知と思いますが、
その陰で裏金も作っていたということです。
私は何を思えばいいのでしょうか。
吉岡医院 吉岡幹博