2019年8月7日
皆様お元気ですか?
今日は便についてのお話です。
皆様の中にも普段から、
便の色を気にされている方も
おられると思います。
もし真っ黒な便が出たら
皆様はどうされますか。
本当に真っ黒な便は、
コールタールに似ていることから
タール便とも呼ばれます。
よく当院にも、
黒い便が出たとおっしゃって
心配し来院される方がおられます。
ただその方全てがタール便かといいますと、
違うことも多いです。
少々黒っぽい便だと病気と無関係のこともあり、
食べ物から来ていることもあります。
本当に気を付けなければならないのは、
泥状の便がまるでイカ墨のように、
ドロッと真っ黒だった場合です。
それは胃や十二指腸といった
上部消化管からの
出血の可能性があるからです。
具体的な病気としては、
胃潰瘍、十二指腸潰瘍、がん、
食道静脈瘤、出血性胃炎などです。
しかも何回も立て続けに続くときには
現在も出血が続いると可能性が高く、
これは緊急扱いになります。
胃や十二指腸での出血が、
小腸を通過し大腸まで流れ込み、
そして大量の下痢になって出るわけですから、
出血量も少なくないと考えられます。
すぐに病院に行き、
診察で黒色便が確認されれば、
緊急で胃カメラが行われます。
胃カメラは血圧や心拍数が問題なければ、
苦痛を軽減するため軽い麻酔ををかけて行い、
出血の程度や原因を調べます。
通常の胃カメラでは、
喉、食道、胃と順番に観察しながら行いますが、
この時は急いで胃の中にカメラを進め、
喉や食道の観察は後回しにあるいは無視します。
胃の中に入ると血液でいっぱいのこともあれば、
血液がわずかにあるだけで、
出血は自然に止まっていることもあります。
その中から胃潰瘍などの原因を調べて
止血処置を行います。
多くの場合潰瘍から出血していますので、
電気メスやアルゴンレーザーで焼灼し止血します。
出血部位が処置しにくい場所であったり、
動脈から噴き出るように出血しているときは、
簡単に止血できないこともあり、
画面が血液で真っ赤になることで、
困難な状況に追い込まれることまあります。
止血処置は簡単なようで、
難しいことも少なくありません。
止血後は再出血防止のため
しばらくの間絶食が必要となり
その間は入院となります。
従ってタールのように真っ黒な黒色便を見たときは、
緊急事態と認識し、
近くの医療機関に相談する必要があります。
つい先日当院でも、
前日から黒色便が出ているという、
30代の男性が初診で受診されました。
過去にも同じようなことはあり、
その時は自然に収まったということで、
胃カメラも受けたことが無いとのことでした。
胃カメラを行っていなかったので、
前回の黒色便の原因がわかりません。
出血でも自然に止まることもあります。
まずは本当に出血があるか調べてから、
必要であれば病院へ搬送することにしました。
来られたのが昼前でしたので、
少し点滴をしながら待ってもらい、
午前診終了ののち胃カメラを行いました。
食道を抜け胃の中に入りましたが、
血液はほとんどありませんでした。
「あれ、出血ではなかったのかな?」
と思いながら十二指腸に入ると、
十二指腸の入り口で多量の血液がありました。
現在も出血が続いています。
おそらく十二指腸潰瘍からの出血です。
残念ながら当院には入院設備がありませので、
出血があることを確認した後は、
止血処置なしに胃カメラを抜去し撤退します。
止血できる医療機器もありますが、
処置具が豊富に揃っているわけでもありませんし、
何より処置中に血圧低下など急変した場合に、
対応することができません。
そこから受け入れ病院を探し、
そちらに行っていただきました。
紹介先の病院で止血処置を受けられ、
事なきを得たとのことでした。
このように黒色便は、
若い方でも緊急を要す状態ですし、
年寄りの方ではより速やかな対応が必要です。
もし胃カメラをして出血がない場合は、
時には小腸からの出血がありますので、
カプセル内視鏡などが必要になることもあります。
また大腸の確認も念のため必要ですが、
通常大腸からの出血は、
赤色、あるいはレンガ色の便になります。
上部消化管からの出血で血液が黒くなるのは、
血液中のヘモグロビンが
胃液や腸内細菌の作用を受けて酸化し、
最終は硫化ヘモグロビンとなるからだそうです。
従って便の性状から、
どのあたりの出血かを予測することもでき、
続いて行う検査の選択に役立ちます。
またちなみにですが、
「下血」という言葉は主に上部消化管出血による
黒色便、タール便のことを指します。
それに対し「血便」は、
赤や赤褐色の便が出るときに使い、
主に大腸や痔からの出血を疑うものです。
これは医療従事者でも間違っていることもあり、
覚えておかれると良いかもしれません。
そして、
もしこのような便を見たら、
放置せずに病院を受診なさってください。
吉岡医院 吉岡幹博