2018年10月17日
朝晩めっきりと涼しくなり、
週末ごとにやってきた台風も、
ようやく一段落でしょうか。
当院では10月15日より、
インフルエンザの予防接種が
始まりました。
本格的には11月ぐらいからになりますが、
今年もどことなく供給量が不十分の様子で、
皆様も早めに医療機関でご相談ください。
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今回は今年のノーベル賞について、
少し触れてみたいと思います。
皆様ご存知の通り、10月1日、
今年のノーベル医学生理学賞が発表され、
京都大学の本庶佑氏が受賞されました。
本庶氏は1942年京都市生まれの京大卒。
京都にゆかりの深い方の受賞には、
私も何か誇らしい気持ちになりました。
この方がオプジーボの開発者と聞き、
さらに驚いたものです。
がんを扱う医療従事者にとっては、
まさにトピックの製剤だったからです。
ノーベル賞というと、
かなり以前の発明がのちに評価されたり、
日常生活ではあまりかかわりがなかったりと、
どこか遠い世界のイメージがあります。
受賞内容を聞いても、
今一つよくわからない研究も多いですね。
最近では2012年iPS細胞でノーベル賞を受賞した
山中伸弥先生が印象に残っていますが、
この研究は現在の医療に直結するものでした。
そういう意味では、
今回の受賞も
とても身近に感じることができました。
オプジーボが最初に話題になったのは、
その効果というよりはその薬価の高さでした。
もともと平成26年に悪性黒色腫に対して、
保険収載され使用されるようなったときには、
市場規模は31億円だったそうです。
それが平成27年12月に肺がんに承認されると、
市場規模は一気に膨らみ、
1500億円と50倍になりました。
例えば、
体重60㎏の人が1年間オプジーボを使用すると、
26回の使用で3500万円かかるそうです。
使用する可能性のある肺がんの患者数は、
10万人いるそうですので、
その一部の使用にとどまったとしても、
1兆円に近くに上ることになります。
そのために厚労省は、
平成26年当初73万円だった100㎎あたりの薬価を、
29年2月には半分の36万円に、
今年4月からは28万円に下げました。
製薬会社にとっては発売当初から
60%以上も値下げをされたことになります。
国の政策での値下げで気の毒な気もします。
しかしながら使用可能ながんの種類も、
大幅に増えています。
30年10月現在以下のようになっています。
・悪性黒色腫
・切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
・根治切除不能又は転移性の腎細胞癌
・再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫
・再発又は遠隔転移を有する頭頚部癌
・がん化学療法後に増悪した治癒切除不能な進行・再発の胃癌
・がん化学療法後に増悪した切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫
中にはあまり馴染のない癌も
含まれているかと思いますが、
肺癌・胃癌となると患者数は相当です。
確かに限られた社会保障費で賄うには、
あまりにも高額な費用ですので、
値下げは仕方ないことかもしれません。
ただメーカーにとっては使用量が増えることで
ある程度利益が維持できますので、
これからも適切な薬価で
より多くの人が恩恵を受けられるといいと思います。
しかし今回の薬の開発の歴史を、
ノーベル賞受賞の報道とともに知るにつれ、
値段などつけようがないものかもしれないと
感じるようになりました。
今までのがん治療の柱である、
手術、放射線、抗がん剤に並ぶ、
第4の柱である「免疫療法」を打ち立てた功績は、
既存の常識を覆したといえます。
免疫細胞の働きを明らかにするという
純粋な基礎研究からスタートした結果、
応用研究を経てがん患者の治療薬に結びついたのです。
長年の地道な研究が、
結果にすぐ結びつかないところに、
本当の発見があるのかもしれません。
本当に素晴らしいと思います。
それに加えて、
あまり知られていないかもしれませんが、
今年はノーベル化学賞にも、
画期的な治療薬につながった研究があります。
今年のノーベル化学賞は
米国人のフランシス・アーノルド氏
(酵素の指向性進化法の解明に対して)、
同じく米国人のジョージ・スミス氏、
英国人のグレゴリー・ウィンター氏
(ペプチドと抗体のファージディスプレイの開発)
に授与されました。
3名受賞者の1人であるウィンター氏は、
リウマチなどの自己免疫疾患の原因となる
TNFα(腫瘍壊死因子α)の働きを抑える
抗体を開発しました。
現在ではヒュミラという名前のお薬で、
リウマチや炎症性腸疾患の治療薬として
実用化(2002年承認)され、
実際の治療に大きな役割を果たしています。
このように今年の自然科学系ノーベル賞には、
肺癌や胃癌、潰瘍性大腸炎など
私も日常診療でかかわっている病気で使用される、
薬剤の開発に関係するものがありました。
これからも新しい知見が、
実際の臨床で役立つことを願っています。
そして日本の基礎研究が、
これからも世界をリードしていけるような環境作りを、
国を挙げて行ってもらいたいと思います。
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ついでに、
今年のイグノーベル賞について、
少し触れさせていただきます。
皆様はイグノーベル賞はご存知でしょうか?
1991年に創設された
「人々を笑わせ、そして考えさせてくれる研究」
に対して与えられるノーベル賞の裏版です。
毎年約10の個人やグループに対し、
時には笑いと賞賛を、
時には皮肉を込めて授与されているのですが、
日本はこの賞の常連国となっています。
そして、
今年のイグノーベル医学教育賞には、
昭和伊南総合病院に勤務する堀内朗医師が
受賞されました。
テーマは、
「座位で行う大腸内視鏡検査
―自ら試してわかった教訓」
授賞式の様子です。
(延々と続きますので適当に止めてください)
かなりふざけたような授賞式ですが、
選考にはノーベル賞受賞者も名を連ね、
授賞式はハーバード大学で行われています。
この受賞スピーチは
60秒以内の制限時間があります。
それを超えると8歳の女の子が登場し、
「飽きちゃった、もうやめて!」
と叫ばれ続けます。
先生も途中から叫ばれていました(笑)
8歳の女の子が登場するにも訳があり、
「8歳の少女に罵られるのが
最も心的ダメージが大きい」
という研究結果に基づいているそうです。
私も大腸カメラを日々行いますので、
この受賞はかなり興味深かったです。
でも自分で大腸カメラをやるとは、
考えたこともありませんでした。
内視鏡をされる先生には、
本当にマニアックな方が多く、
私が過去に勤めていた病院でも、
自分で胃カメラをする先生はおられました。
やはり
新たな発見には、
大いなる好奇心と飽くなき探求心が、
そして時にはユーモアも必要と感じました。