2018年4月17日
1年で最も美しい桜の季節も一段落し、
多くの外国人観光客で賑わっていた京都も、
少しは落ち着きを取り戻した感じがします。
日によっては寒かったり暑かったり、
一日の中でも気温の変動が激しくて、
案外体調管理が難しいかもしれません。
皆様はおかわりありませんか?
●
さて、今回は、
皆様にとっても身近かもしれませんが、
便秘についてのお話です。
皆様の中にも、
時々薬局で便秘薬を買って飲まれる方や、
病院に通い治療されている方も多いと思います。
一言で便秘と言っても大変奥が深く、
とてもブログで語ることはできないのですが、
よく使うお薬とともにちょっとご説明します。
ところで、便秘とは何でしょうか?
便秘の定義は、
「本来体外に排出すべき糞便を、
十分量かつ快適に排出できない状態」
とされています。
(便秘症ガイドライン2017より)
この中には、
①排便回数や排便量が少ないために、
糞便が大腸の中に滞っている状態や、
②直腸まで来た糞便を、
快適に排出できない状態があります。
従って毎日排便があっても、
残便感がありスッキリ出きらない方も、
便秘ということになります。
我が国でよく使う便秘薬は、
大きく分けて2種類あります。
1つ目は「浸透圧性下剤」という
分類の下剤です。
皆様も知っておられる方は多いかもしれませんが、
「酸化マグネシウム」がこれに当たります。
商品名でいうと「マグミット」や「カマグ」です。
マグネシウムは腸内で炭酸水素マグネシウムとなり、
浸透圧維持のため腸壁から水分を奪い、
便を軟化することにより排便を容易にします。
つまり便の水分を増やし軟らかくし、
排便がスムーズに行われるようにするもので、
量の調節も簡単でよく使われます。
ただ便は柔らかくなりますが、
腸管の動きを良くするという働きはないので、
便は柔らかいけど出ない方には不向きです。
また長期間に多量に使用していたり、
腎機能が悪い方では、
血液中のマグネシウムが上昇することがあります。
特に便秘薬は高齢者での使用頻度が多く、
高齢者では腎機能が低下している場合もあり、
定期的に血中マグネシウム値の測定が必要です。
しかし副作用も少なく長期に内服できることより、
便秘薬の第1選択であり、
最も頻繁に使用されています。
では、腸の動きが悪くなり、
便が腸管に停滞するために起こる便秘は、
どのようなお薬を使うのでしょうか。
これが2つ目のカテゴリーで、
「刺激性下剤」に分類される下剤になります。
現在病院で処方可能な刺激性下剤には
アントラキノン系(プルゼニド、アローゼン)と、
ジフェノール系(ラキソベロン、テレミンソフト)
の2種類があります。
皆さんは「センナ」という成分をご存じですか?
商品名では「プルゼニド」「チネラック」
「センノシド」という名前のお薬です。
このセンナという成分は、
腸管を刺激し蠕動を促進することにより、
大変よく効く下剤として頻用されています。
特に長年便秘で悩んでいる方は、
多くの方がセンナを含む下剤を使用しています。
それだけよく効くのです。
酸化マグネシウムのように、
便を柔らかくするだけでなく、
腸の蠕動も亢進するので、
排便後は非常にすっきりします。
しかしこのお薬も欠点があり、
長期に使っているとだんだん効果が
薄れてくるといわれています。
このお薬には、「依存」と「耐性」の問題があり、
同じ量では少しずつ効果が減弱するため、
だんだん量が多くなる(耐性)、
またこれなしでは便秘が解消されない(依存)がおこり、
腸管がマヒをして頑固な便秘を引き起こします。
イメージとしては、
長年腸管を鞭打って便を出してきたために、
最後には疲弊して動けなくなるような感じでしょうか。
また「大腸メラノーシス(黒皮症)」を引き起こし、
大腸粘膜が黒ずんできます。
腸の動きが悪くなり便秘が悪化していくことがあります。
私は大腸カメラを日々やっておりますので、
メラノーシスのある方はすぐに分かり、
尋ねると多くの方がセンナを服用されています。
このような腸管は何となく張りのなくなった、
伸び切ったような腸管であることが多く、
慢性的な便秘を惹き起こしていると考えられます。
だから先が長い若い方には、
できるだけ使いたくありません。
皆様もよく効くからといって、
市販のものでもセンナが入っていないかどうか、
チェックしてみてください。
市販のセンナ茶などにも含まれます。
軽い気持ちで飲んでいると、
だんだん量が増えていくことがあります。
また漢方薬では、「大黄」という成分が、
センナと同じアントラキノン系ものになります。
大黄甘草湯はよく効くけれども、
大黄が多く含まれており注意が必要です。
従って、センナがメインの便秘薬は、
あまり若いうちから長期で飲まないようにし、
便秘時の頓用として使用すべきです。
出ないときだけ助けてもらう、
このような使い方であれば非常に有用で、
安全性も高いと専門家も言っておられます。
高齢者の方は実際センナがないと出にくい方もあり、
量が増えないように注意しながら、
毎日使用することも多くあります。
要は今後のことも見据えながら、
慎重に投薬する姿勢が必要かと思います。
なお大黄には子宮収縮作用および
骨盤内臓器の充血作用により早期流産の危険性があり、
妊婦さんには投与しない方がいいですとされています。
さらに乳汁への薬剤移行の可能性も指摘されており、
授乳中の女性にも関しても注意が必要です。
また、同じ刺激性下剤でジフェノール系薬剤の、
「ピコスルファートナトリウム」というものがあります。
商品名「ラキソベロン」というお薬です。
やはり腸管の蠕動を起こしますので、
腸の動きの悪い方には有用ですが、
こちらも依存や耐性の問題はあるようです。
ただセンナほど言われていないので、
私はセンナよりこちらを使用することが多いです。
それでも頓用として使用するように心がけています。
こちらは6か月以下の乳幼児から使用可能ですので、
小児の便秘にも用いられています。
このお薬には液体タイプがあり、
成人では通常水の中に5滴~10滴を落とし服用するもので、
小児では2滴から使用するなど微調整がききます。
因みに
ラキソベロン錠2.5㎎1錠はラキソベロン液5滴に相当し、
ラキソベロン液1本10mlは150滴分で錠剤で30錠に相当します。
こちらの薬剤は母乳への影響は少なく、
妊婦さんや授乳婦さんにも使用可能となっています。
これまでよく使われる下剤といえば、
酸化マグネシウムかセンナ系が多かったのですが、
この数年新薬が登場するようになりました。
最新のものは今週発売になる「グーフィス錠」という
水分を保持しながら腸管の蠕動も促進するもので、
便秘薬の新たなタイプとして期待されています
こちらについてはまた次回にでも、
この数年の間に発売された新しいお薬と一緒に、
ご紹介できればと考えています。
今回は便秘薬の現状について、
簡単にまとめてみました。
ご参考になれば幸いです。
吉岡医院 吉岡幹博
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