2017年6月27日
梅雨のうっとうしい天気が続いています。
各地では大雨の報告がきかれますが、
京都はそれほどではないですね。
蒸し暑い毎日ですが、
皆様はいかがお過ごしでしょうか?
ところで、
6月から8月は食中毒が多い季節です。
先日も当院に受診された胃腸炎の患者さんが、
大阪で発生したの集団食中毒の一人ということで、
保健センターから問い合わせがありました。
初診時に便培養の検査を出していました。
その結果カンピロバクターという菌が検出され、
集団食中毒の原因菌と一致しておりました。
皆様も生ものや、
少し賞味期限が近づいた食材には、
十分ご注意ください。
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今回はピロリ菌の話題です。
先日講演会でお聞きした内容ですが、
ピロリ菌の除菌が成功するときとしない時で、
どのような理由があるかという話を聴きました。
まずピロリ菌の除菌治療についてですが、
保険診療で投薬の内容が決められていますので、
基本事項としてご説明します。
ピロリ菌除菌には3つのお薬、
(抗生剤2種類、胃薬1種類)を1日2回7日間、
毎日空けることなく飲み続けます。
そして飲み終えてから4週間あけて、
ピロリ菌が消えたかどうかの、
判定の検査を行います。
まず最初に行う1次除菌では、
抗生剤2種類(アモキシシリン・クラリスロマイシン)と
胃酸をおさえるお薬を使用します。
1次除菌では大体80%くらいの方が成功し、
ピロリ菌が除菌されますが、
20%くらいの方は消えずに残ってしまいます。
その方に対しては2次除菌を行います。
抗生剤2種類のうちクラリスロマイシンを
メトロニダゾールというお薬に変えて、
同じように3種類のお薬を7日間内服します。
2次除菌は1次除菌よりも良く効いて、
残りの85%以上の方で除菌が成功します。
2回行うとほとんどの方で除菌できることになります。
つまりピロリ菌はアモキシシリン、
クラリスロマイシン、メトロニダゾールといった
3種類の抗生剤で治療するのです。
従ってこれらの抗生物質が、
ピロリ菌に対し有効に作用しなけば、
除菌はうまくいきません。
除菌治療が成功するかどうかは、
抗生剤がいかに効果的にピロリ菌に効くか、
ということに大きく関係しています。
ではこれらのお薬が効くかどうかは、
どのような要因に左右されるでしょうか。
まずはピロリ菌が、
除菌で使用する抗生剤に対し、
耐性を持っていないかどうかです。
耐性というのは、細菌に対し、
抗生剤が効きにくくなることを言います。
特にクラリスロマイシンという抗生剤は、
慢性気管支炎や副鼻腔炎でよく使用され、
その抗生剤を使用した患者さんのピロリ菌は、
耐性を獲得することがあります。
また近年の抗生剤の多用により、
クラリスロマイシン耐性のピロリ菌の割合が、
増加していると報告されています。
クラリスロマイシン耐性ピロリ菌が増加すると
同じ治療を行った場合、
以前より除菌成功率は低下してしまいます。
1次除菌が不成功であった場合、
次に行うのは2次除菌です。
2次除菌では抗生剤の2種類のうち、
クラリスロマイシンが、
メトロニダゾールという抗生剤に変わります。
現在日本のピロリ菌は、
メトロニダゾールに対する耐性菌は少なく、
2次除菌では1次除菌より高い除菌率を示します。
従って2度の除菌治療で、
ほとんどのピロリ菌は除菌できるのです。
ということで1つ目の要因として、
ピロリ菌の薬剤耐性の有無が挙げられます
また別の要因として一緒に飲む制酸剤が、
十分に胃酸を抑えるかということが
重要になってきます。
クラリスロマイシンをはじめ抗生剤は、
胃酸により抗菌作用が低下することが、
知られています。
胃酸を胃薬で十分に抑えないと、
抗生物質の効果も期待できません。
従って胃薬の効果も大きな要因になります。
以前から抗生物質と併用する胃薬は、
プロトンポンプ阻害剤(PPI)という、
胃酸を高度に抑える制酸剤です。
商品名でいうと、タケプロン、パリエット、
オメプラール、ネキシウムというお薬です。
これらのお薬は、
一部に効果の出にくい方がおられます。
これは生まれつきの酵素の関係です。
その様な方は通常どおり内服しても、
胃酸が十分に抑制されず、
抗生剤の効果も不十分となります。
その結果除菌不成功となる可能性が
高くなるのです。
ということで2つ目の要因は、
胃薬で十分に胃酸が抑えられるかどうか、
ということが挙げられます。
最近ではPPIの進化版で、
更に強い制酸剤が開発されました。
タケキャブというお薬です。
このお薬は従来のPPIに比べ、
胃酸を抑制する効果が高いこと、
そして酵素の影響を受けず、
どの方でも同じくらい高い効果を発揮します。
現在ははピロリ菌除菌の際に
用いられることが多くなり、
除菌率が10%以上上昇したと言われています。
この2つの要因が、
除菌治療の成否に大きく関係しています。
また案外知られていないかもしれませんが、
除菌のお薬を個別に処方するよりも、
パック製剤でまとめて処方すると、
同じ内容なのに除菌率が上ることがあるようです。
パック製剤は、
時間ごとに飲むべき複数のお薬を、
分かり易くまとめてシートに配置してくれています。
これにより、飲み忘れや飲み間違いが減り、
服薬コンプライアンスの上昇が、
除菌の成功につながるとのことです。
決まった方法できちんと飲むことがいかに大切か、
これで分かりますね。
また抗生物質の副作用で下痢になることがあり、
除菌薬と一緒にビオフェルミンの様な、
整腸剤を併用するのも有効なようです。
ある種の整腸剤の併用は、
除菌率そのものを上昇させたという報告もあり、
単なる副作用対策以上の効果もあるようです。
皆さんの身近なものとしては、
明治の「LG21」というヨーグルトがありますが、
それを食べながらお除菌治療をすると
除菌成功率が上がることも考えられます。
これに関しては臨床研究はあまりされておらず、
確実なデータではないので必ずしもお勧めしていませんが、
併用して悪いことはないだろうとは思っています。
以上のように、
単に「ピロリ菌を治療する」と言っても、
さまざまな要因が関係します。
除菌治療は1次除菌と、
それが不成功に終わった場合の
2次除菌とがあります。
3次除菌もあることはあるのですが、
今のところ保険診療では認めておらず、
大学病院などで自由診療として行われています。
従って何とか2回の除菌の機会で、
きっちり除菌できなければなりません。
方法は保険診療では決まっているので、
どこで治療を受けても大差ないのですが、
いくつかの注意点があるのも確かです。
今後ピロリ菌の除菌を考えておられる方は、
やはりピロリ菌除菌の経験の多い、
専門の内科にご相談なされることをお勧めいたします。