京都市上京区の胃カメラ・大腸カメラ・婦人科・一般内科・小児科 吉岡医院

医療法人博侑会 吉岡医院 京都市上京区
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最近のすい臓がん事情

2015年3月17日

先週の木曜日、
ある病院の講演会の座長(進行役)を依頼され、
行ってまいりました。

講演のタイトルは「膵癌の集学的治療」、
講演されるのは静岡県立静岡がんセンター
肝胆膵外科部長で副院長の上坂先生でした。

消化器外科、特に肝胆膵領域では、
大変名の通った方です。
というのも、すい臓癌治療を変えた一人だからです。

「集学的治療」というのは聞きなれないかもしれませんが、
手術、放射線、化学療法(抗がん剤治療)など、
多種多様な方法を組み合させて治療するという意味です。

そもそもすい臓がんは発見が難しく、
進行が早く、他臓器への転移も多い、
最も治療困難ながんのうちの一つとされています。

外科切除が唯一、治癒を見込める治療法ですが、
手術できるのは全体の10~20%程度とされています。

しかも外科切除後の5年生存率は20%程度とされ、
手術してもなおその後の再発や転移で、
満足な治療成績は得られておりません。

すい臓がんの手術は非常に難度の高い手術ですが、
手術単独での成績は、
この20年ほどほとんど変わらないそうです。

 

つまりこれ以上いくら手術の技術が進歩しても、
治療効果は上がらないことがわかってきました。
頭打ちの状態です。

となると手術以外の方法はどうかということになります。
そこで集学的治療ということになります。
主なものとして、放射線療法、化学療法があります。

放射線や化学療法は全く効かないことは無いのですが、
すい臓がんは胃がんや大腸がんなどに比べると、
今まではそれほど期待できる効果は示されませんでした。

 

1990年代後半にゲムシタビンという抗がん剤が登場し、
2007年ドイツを中心としたすい臓がんの臨床試験で、
術後に使用すると生存期間が延びることが報告されました。

それは最終的にはほんの少しの差でしかなかったのですが、
ゲムシタビンを用いた方が、
手術のみの群よりも生存期間の延長が認められたのです。

いままでほとんどの抗がん剤が、
すい臓がんには効かないとされていた中で、
初めて有効性が確認された画期的な報告となりました。

 

これをきっかけとしてその後、
さまざまな抗がん剤が試されたのですが、
ゲムシタビンに勝るものは見つかりませんでした。

そんな中、日本からは、
膵癌補助化学療法研究グループ(JASPAC)が、
TS-1という抗がん剤を用いた臨床試験を行いました。

TS-1は決して新しい抗がん剤ではありませんでしたが、
過去の臨床試験では、
すい臓がんにはそれほど効果は期待されていませんでした。

しかしそのTS-1をすい臓がんの手術後に用いたところ、
それまで唯一効果が確認されていたゲムシタビンに対し、
それを上回る有効性が示されたのです。

それは誰もが予想しないほどの結果で、
今までのゲムシタビンの生存曲線の、
はるかに上のラインを描いていたのです。

中間解析の時点で高い有効性が示されたことより、
この試験の結果は全世界に向け発表され、
大きな注目を浴びたのです。

この素晴らしい臨床試験を実施されたのが、
今回ご講演された、
静岡がんセンターの上坂先生でした。

上坂先生本人もこの中間解析が出た時、
相当驚かれたそうです。
それほど衝撃的な研究結果だったのです。

海外の研究者はその時にこういったそうです。
“Too good to believe”
良すぎて信じられない(嘘ではないか)

さらにこのようにも言われたそうです。
「日本で扱っているすい臓がんは、
欧米で扱っているものと別物なのではないか」

何かインパクトのある成果が発表されると、
必ずこのような意見が出るものです。

しかしさまざまな形で第三者の検証を受け、
この臨床試験に全く偽りはありませんでした。

TS-1に関しては日本での研究は進んでいるのですが、
まだ世界レベルでは科学的根拠が少なく、
これから様々な形で追試されていくと思われます。

今回のご講演では、
膵癌治療に対する上坂先生の熱い思いが、
随所に垣間見られる大変興味深い内容でした。

このようにして、数々の科学的根拠をもとに、
少しずつ、一歩ずつ、医学は進歩しています。

いつの日かすい臓がんも、
必ずしも治らない病気でなくなる日が、
来るのかもしれませんね。

私ができることといえば、
いかに早期発見をするかということですが・・・、

それが最も重要なことで、
最も困難なことであるということは、
言うまでもありません。