2014年5月17日
5月も中旬となり、
各地で夏日、真夏日の報告が出てきてますね。
気温が上がり始め脱水症の季節です。
これから特に蒸し暑くなりますので、
水分をしっかり摂ってくださいね。
さて、今回は検診の診断基準についてです。
「血圧やコレステロールの基準が変わったんですか?」
「お薬も今のままいるのですか?」
最近しばしば患者様から聞かれる言葉です。
ご存知の方も多いと思いますが、
日本人間ドック学会がこの4月に、
突如として新たな診断基準を発表しました。
これには驚かされます。
血圧は、現在正常とされる数値が、
上の値は129まで、下の値は84までですが、
上の値は147まで、下の値は94までとなりました。
120未満が良いとされてきた悪玉コレステロールは、
男性178以下、女性は年齢を3段階に分け、
高齢女性で190以下となりました。
今までの基準とだいぶ異なります。
人間ドックの診断基準も、
今までは各学会、例えば血圧だったら高血圧学会、
コレステロールだったら動脈硬化学会の、
基準値やガイドラインに従っていたのですが・・・。
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ちなみに時を同じくして今年の4月、
日本高血圧学会から新たな診断基準が発表されました。
変わった点をお示しします。
高血圧の診断基準(降圧薬治療開始基準)は
「収縮期140以上、拡張期90以上」と、
従来と変化なしでした。
一方、血圧を下げる努力目標である降圧目標を、
「若年・中年者高血圧」の場合、
「130/85未満」から「140/90未満」に改訂しています。
また後期高齢者(75歳以上)は
「140/90未満」から「150/90未満」に変更になっています。
こちらも少し緩和されているようです。
こちらは以前に比べ極端には変わっていませんね。
このようにガイドラインが数年おきに改定されるのは、
新しい臨床試験の結果などをもとにしているからです。
このような診断基準に採用される臨床試験やデータには、
何十年もかけて追跡調査をしたものや、
参加人数の規模が非常に大きいものなど、
いわゆるエビデンスレベルの高い研究が求められます。
基準は大変厳格でなくてはなりませんので、
例の降圧薬「ディオバン」事件で問題となった、
「KYOTO Heart Study」や「JIKEI Heart Study」などは、
今回の採用文献から除外されています。
どのような臨床試験やエビデンスを採用するか、
どのようなデータをどのように解析するかで、
結果が微妙に変わってくるのは当然かもしれませんね。
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では、先ほどの人間ドック学会は、
どのようなデータをもとに基準を出したのでしょう?
学会は2011年に人間ドックを受けた約150万人のうち、
病気にかかっておらず、薬も飲んでいないなど、
極めて健康な男女(スーパーノーマル)を選びだし、
27項目の検査データを解析をしたそうです。
そこで得られたデータをもとに、
新たな基準値を出してきたのです。
現在健康な人はこんなデータですよという具合です。
しかし、これは150万人というメガデータとはいうものの、
単年度の検診を受けた方のデータのみを扱っており、
前向き、後ろ向きの時間的な追跡は全くありません。
恐らく「横断研究」という、
科学的根拠の比較的低い研究ではないのでしょうか。
(詳しくありませんが)
学会はいづれこのデータをもとに、
検診での基準も変更するつもりだったようですが、
さすがに世間の混乱を招き釈明を行っています。
https://www.ningen-dock.jp/other/release
先日とある講演会で同学会の「事情通」に出会い、
お話を伺ってみましたが、
日常臨床での診断基準は今まで通りでいいそうです。
逆に、
どうしてあのような発表をしたのかと、
頭を抱えておられました。
例えは間違っているかもしれませんが、
現時点で調子よく走っている車がいい車なのか、
また10年後故障なく走り続ける車がいい車なのか、
またそれぞれはどんな特徴があるのか?
判定基準が変われば結果も変わります。
今回の人間ドック学会の出したデータは、
恐らく前者のデータではないかと思われます。
でも我々人間で大切なのは後者ですよね。
何が健康でどこまでが健康か、
何を基準に治療の対象となるかを決めるのは、
きわめて難しい問題です。
人それぞれが認識する「健康」は、
価値観の違いでも変わってくるかもしれません。
私はある意味人それぞれでいいと思うのです。
できるだけ長生きしたい方は厳しい基準で、
あまりたくさんお薬を飲みたくない方はゆるい基準で、
健康よりも、自分の好きなように暮らしたい方には、
お薬は不要かもしれません。
現時点では私は、
従来の診断基準にそって診療する予定ですが、
それぞれの方のご希望にそった診療を、
心がけたいと思っております。