2013年10月17日
天気のいい日は空がどこまでも高く、
ふと走り出したくなる今日この頃です。
すっかり秋ですね。
風邪の患者さんが増えてきています。
季節の変わり目で体調管理の難しい時期です。
皆様もご自愛くださいませ。
●
さて、
患者さんからよく受ける質問の一つに、
胃がん検診は、バリウムか胃カメラか、
どちらがいいのかというのがあります。
一般の方には分かりずらい問題です。
胃カメラは苦しい、胃X線検査(以下バリウム検査)のほうが、
何となく楽かななどと思われている気がします。
バリウム検査というのは、
白色のバリウムという造影剤を口からのみ、
胃壁に広がったところをレントゲンで撮影し、
その凹凸から病変の有無を見るものです。
胃カメラはご存知のように、
小型のCCDカメラのを装着した細い管を、
口や鼻から挿入し、
胃の中をカラー画像として直接観察するものです。
皆さんはどちらの検査が、
より詳しく病気を観察できると思いますか?
答えは明らかです。
バリウム検査はいわばシルエットクイズです。
病変の凹凸のみをとらえて判定します。
白黒のコントラストのみで色彩を持ちません。
胃がんの中には凹凸がほとんどなく、
色調のみで癌と判断する平坦型というものも存在します。
これだけは絶対バリウム検査ではわかりません。
また結構はっきりとした病変も、
造影剤の重なりやレントゲンの角度によっては、
見えないこともしばしばあります。
早期がんのみならず、進行がんでも見落とす、
場所によってはそういうこともあり得るのです。
皆さんは胃カメラをお選び下さい。
●
今年8月、
8年ぶりとなる「胃がん検診ガイドライン」の改訂を前にして、
消化器癌検診学会が意見募集を行いました。
そして、今回のガイドライン案の結論は、
「胃がん検診として推奨できるのは
胃のX線検査(バリウム検査)のみであり、
他の胃内視鏡検診、ヘリコバクターピロリ検査などは
胃がん検診と して推奨しない」
となりました。
今までも胃がん検診のゴールドスタンダードは、
バリウムによるX線検査でした。
しかし近年の内視鏡検査の普及により、
当然胃カメラが推奨されるべきと誰もが考えていました。
それが否定されたのです。
検診で必要なことは、その検査を行うことにより、
死亡率が低下したという根拠です。
また検査にかかるコストも重要です。
たとえば、大腸がん検診の場合便潜血を測定しますが、
もちろん大腸カメラをする方が発見率が上がるでしょう。
しかしそこにはコストと施設の数に限界があります。
しかし、バリウム検査と胃カメラでは、
コストにそれほど大きな開きはありません。
また実施できる施設も多くあります。
患者さんの立場で行くと、
準備(絶食など)、検査時間ともにほとんど同じです。
ただ人により胃カメラの方が苦痛はあるかもしれせんが、
精度の点からいうと許容できる範囲かと思います。
しかし今回のガイドライン案では、
バリウム検査か胃カメラのどちらでもよい、
というのではなく、
「胃カメラを推奨しない」と言っております。
言い換えれば、「胃がんの死亡率を減らしたければ、
胃内視鏡よりも精度の低い胃のバリウム検査を受けることを
推奨します」という決定です。
この発表には多くのまっとうな医師、
とりわけ消化器内科の医師は、
耳(あるいは目)を疑いました。
研究班は胃カメラを推奨しない理由として、
胃カメラ検査により死亡率を低下させたという証拠がないので、
検診には推奨できないとしています。
証拠(エビデンス)が不十分だから認めないというのもわかりますが、
本来の目的は、早期の胃がんを見つけ適切に治療し、
みんなが健康で長生きすることを目指すものです。
根拠が不十分というのを理由に、
精度の高い胃カメラを推奨しないなど、
研究班が情報を故意に操作した結果でしょう。
そしてそのような医学的根拠を導こうと思えば、
ある一定の人数を、「バリウム検査のみ受けた人」と
「胃カメラのみ受けた人」に本人の意思とは無関係に振り分け、
長期的にどちらに胃がんによる死亡率が高かったかを
調査する必要があります。
このような片方に極端な不利益が予測される臨床研究は、
どこの倫理委員会が認めるわけもありません。
ということはずっとこの先も根拠が出ない可能性があります。
その場合根拠がないことを理由に、
胃カメラは推奨されないままで行くというのでしょうか?
それこそ道理に反していると思われます。
ところが実際のところ、厚労省は、
「内視鏡検査を行うことのできる自治体には、
実施することを妨げない」
と言っています。
本来なら推奨されない検査は中止すべきというところです。
事実上内視鏡検査が有効と知っているからこそ、
片方では否定しているにもかかわらず、
黙認しなければならない矛盾が生じるのです。
また内視鏡検査の欠点として、
「治療の必要がない早期胃がんまでも
発見してしまう恐れがある」
と報告されていますが、
これこそ何も根拠のないまやかしです。
そもそも
「治療の必要のない早期胃がん」
というのはどういう段階ものを指すのか、
全く示されておりませんし、現実にもないと思われます。
これは長年行ってきたバリウム検査による胃がん検診を、
根本的に変えたくない厚労省の結論ありきの施策と、
それを支える、国から選ばれた研究班の意図的な操作です。
裏で何らかの利権が働いているのでしょうか。
どちらが正しくてどちらが間違っているか、
少し考えれば誰にでもわかるはずです。
これまでもずっと、黒だと思っていたことでも、
詭弁で白に変えてきたのです。
その結果、だれも責任をとらず問題は先延ばしにされ、
結局いまだにバリウム検査が生き残り、
精度の高い内視鏡検査は否定されているのです。
●
世の中の流れとして、今後の胃がん検診は、
コスト面からはピロリ菌を含めた血液検査と、
精度面からは胃カメラ検査に集約されていくと思われます。
バリウム検査は胃の手術前の検査などで有用で、
検査自体が無くなることはないと思われますが、
胃がん検診からは姿を消すでしょう。
胃がん検診そのものが、
早くまっとうな検査で行われない限り、
検診を信じて受けに来ている人々に、
見落としという不幸な結末が訪れるかもしれません。
皆さんはできる限り胃カメラを選択なさってください。
バリウム検査も受けないよりは受けた方がましですので、
胃カメラがどうしても苦手な方はそちらもご考慮ください。
吉岡医院 吉岡幹博