2012年11月9日
11月に入り風邪の患者様が、急激に増加しております。
小学校の学級閉鎖などの報告も届いております。
これから冬になると、さらに肺炎も多くなります。
今回はこの肺炎をひき起こす肺炎球菌についてお話し、
ワクチン接種の必要性について説明します。
まず、肺炎は現在日本人の死因の第4位で、
肺炎による死亡者は、9割以上を高齢者が占めています。
その中で一番多い病原菌は、『肺炎球菌』です。
本来肺炎球菌は、ペニシリンが効きやすい細菌でしたが、
このところペニシリンが効かない、
耐性菌の増加が問題となっています。
特にアジア諸国では、その頻度が極めて高くなっています。
これらの菌の大部分は、セフェム、マクロライドといった、
他の抗生剤にも耐性を示すことがわかってます。
このように、多剤耐性を持つ肺炎球菌が増加し、
抗生剤による治療が奏功せず、
髄膜炎や敗血症をひき起こすことが報告されています。
肺炎球菌がひき起こす肺炎は、
その頻度が高いこと、抗生剤が効きにくいこと、
高齢者では重症化し死亡の危険のある怖い病気です。
そこで、かかる前に予防することが重要になります。
わが国で使われている肺炎球菌ワクチンは、
「23価肺炎球菌筴膜多糖体ワクチン」といって、
高頻度な23種類の肺炎球菌の型で作られています。
このワクチンを接種することにより、
およそ90種類の型がある肺炎球菌の、
約80%に対応できるといわれています。
接種対象者は、2歳以上で、
肺炎球菌による重篤疾患に罹患する危険が高い、
次のような方です。
1) 脾臓摘出患者における肺炎球菌による
感染症の発症予防(保険適応あり)
2) 肺炎球菌による感染症の発症予防
ⅰ 鎌状赤血球疾患、あるいはその他の原因で
脾機能不全である患者
ⅱ 心臓・呼吸器の慢性疾患、腎不全、肝機能障害
糖尿病、慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者
ⅲ 高齢者(65歳以上の方)
ⅳ 免疫抑制作用を有する治療が予定されている患者で
治療開始まで14日以上の余裕のある患者
難しい病名がいくつか並んでいますが、
私たちに身近なのは、ⅱとⅲです。
つまり、心臓の悪い人や喘息のある人、
糖尿病や慢性肝炎のある方は、接種の対象です。
また65歳を越えると接種の対象になります。
こうしてみると結構な数の方が接種が必要になります。
米国では65歳以上の高齢者の接種割合が、
2007年で、なんと、67%と推計されています。
2020年には90%が接種を受けることを目標としています。
日本では、出荷本数から割り出した推定の接種率は、
約11%と低く、米国とは大きく異なっています。
もっと高齢者のワクチンに対する認識が必要です。
肺炎球菌ワクチンは、健康な方では、
少なくとも5年間は抗体レベルが高い状態が、
持続するといわれています。
従って1度接種すると、毎年うつ必要はなく、
再接種は初回接種より5年以上経過してからです。
また、インフルエンザを発症すると、
肺炎球菌による肺炎を合併しやすいことより、
インフルエンザワクチンとの併用も勧められます。
費用は現在のところ自費で、1回¥8,000です。
5年間有効ですので、1年に換算すると¥1,600で、
インフルエンザよりも負担は少ないワクチンです。
普及が進んでいない理由は、
肺炎球菌感染症という病気に対する認識不足と、
自費負担ということがあげられます。
各市町村で一部公費助成により
ワクチン接種を推進している地域もあります。
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000fgan-att/2r9852000000fgh8.pdf#search=’%E8%82%BA%E7%82%8E%E7%90%83%E8%8F%8C%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%B3+%E5%85%AC%E8%B2%BB’
京都市もようやく、平成24年9月1日より
公費助成を始めたようですが、対象者が極めて限定的で、
とても恩恵は受けられそうにありません。
今後より多くの方がワクチンを受けられるような、
公費助成と啓蒙活動が重要と思われます。
高齢者や基礎疾患(糖尿病や呼吸器疾患など)のある方は、
まずはインフルエンザワクチン(これは流行前に受ける)、
そして1週間以上あけて、
肺炎球菌ワクチンを受けるのがいいのではないでしょうか。